この日の緒戦は、B級アイテムの極めつけ「アメージング・スパイダーマン」(ツクダ)です。表題からは、2000年代初頭に公開されたスパイダーマン三部作とその後のリブート作品のゲーム化かと思いきや、実はその遙か前の1984年製!今でこそ、それなりの購買層はいるでしょうが、当時は純粋のアメコミしかなかったわけで、よくぞ、ゲーム化したものです。

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システムは、いわゆるカードを使った戦術級のウォーゲームで、抽象的なNYのマンハッタン地区を描いた地図上で、スパイダーマンと悪漢、ギャング、警察などが登場します。プレイヤーは、移動・カード使用(攻撃)・カード交換のいずれかを実施します。

攻撃はもっぱら、カードを使って行います。同じへクスにいる敵に対し、スパイダーマンなら「腕力」を、グリーン・ゴブリンなら「カボチャ爆弾」など、原作に登場するヒーロー能力を使用します。2d6して規定値以下ならば、敵に1ヒットを与えます。この時、対抗カードを出すと(「カボチャ爆弾」の命中値11以下に対し、「スパイダー感覚」-6修整など)、成功drを変動できます。

ヒットを受けると、スパイダーマンと悪漢は、1ポイントずつ、体力を減らしていきます。損害が10になると、出血多量で死亡します。また、ヒットを受ける度に、気絶チェック(2d6して10以上で1ターン、行動不能)をします。

なお、カードには、スパイダーマンの「ロープ」やDrオクトパスの「金属アーム」、サンドマンの「流動」、クモ殺しロボットの「壁面歩行」などの特殊移動ができるものがあります。また、特殊イベントとして「警察の協力/悪漢の隠れ家」「たれ込み屋/警察へのわいろ」「人質」「クモ糸切れ/補給」「自動車」があります。

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では、実際のプレイはどうかというと・・・スパイダーマンと悪漢とのカード戦闘は、よく練られていて、それらしさが出ています。例えば、グリーン・ゴブリンが「剃刀コウモリ」や「ゴブリン弾」、「エネルギー放出」、「カボチャ爆弾」など、原作通りの多彩な攻撃を行い、スパイダーマンが「スパイダー感覚」で躱します。スパイダーマンは反撃で「腕力」をもって殴り返したり、クモ糸の「網」で一時行動不能にしたりします。すると、グリーン・ゴブリンも、「グライダー飛翔」や「エネルギー放出」で対抗して、映画のような丁々発止の戦いになります。

そう!このアイテムはガチンコの勝敗ゲームではなく、雰囲気を楽しむカード使用のロールプレイングなんです。

ちなみに、デザイナーは、アメリカ人のリプセット氏です。HJ社の「ビター・エンド」やツクダの超B級マルチ「大航海時代」を制作しています。妙なこだわりがうける反面、ゲームバランス(デヴェロップ)は今ひとつかしら。なお、ちはら会では、一時プレイ不能と言われていた「大航海時代」を大幅にコンポーネントを追加・改良し、プレイして「しまった」実績(?)があります(笑い)。
https://blogs.yahoo.co.jp/mitsu005jp/10894340.html
https://blogs.yahoo.co.jp/mitsu005jp/10902499.html

その「大航海時代」と同様に、コンポーネントは全てルールブックに載っていて、手順だけでなく、修整値等の確認にもかなり手間がかかります。ちはら会では、スムーズなプレイングに向けて、3枚に及ぶオリジナルチャートを制作し、プレイアビリティを向上させました。また、警察の出動待機や検問の実施状態などが、わかりにくかったので、ユニットの裏面にシールで状態表示をしました。

【第1戦 スパイダーマン対グリーン・ゴブリン】

それでは、早速、第一戦に。陣営は、スパイダーマン(mitsu)対グリーン・ゴブリン(BIBI)です。

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まず、セットアップですが、ベルビュー病院の「新薬」と世界貿易センタービル(まだ、倒壊していない!)の「現金」が、グリーン・ゴブリンの標的(の可能性)となります。悪漢側は、ダミーを含めた3ユニットを北側・中央・南側に配置して、真の目的を隠蔽しようとします。変身前のピーター・パーカーは、固定のマンハッタン中央におきます。

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序盤、非常に幸運なことにスパイダーマンは、イベント「たれ込み屋」を引いていました。早速、これを使って、真の目標を調べたところ、グリーン・ゴブリンの標的がベルビュー病院の「新薬」と判明します。これで、悪漢側のダミーは意味をなさなくなり、ピーター・パーカーは、わずか数キロ先の病院へ向かって走り出します。

一方、目的地が露見した悪漢側も、まだ、変装で一般市民を装っています。何食わぬ顔で、移動効率のいい地下鉄に乗り込み、ベルビュー病院を目指します。

数ターン後、先に病院に到着したのは、ピーター・パーカーでした。パーカーは面会人のフリをして、ロビーに張り付きます。情報通り、怪しい人物が現れないか、出入り口をチェックしていると・・・。

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親友のハリーの父-オズボーン社長ノーマンが、いつにない、硬い表情で現れます。まさか、彼が・・・。ペーターが声をかけるのをためらっていると、彼は早足でエレベーターに乗り込み、ラボのある10Fに。

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警報器がけたたましく鳴り響いたのは  その直後でした。急ぎ、スパイダーマンに変身したペーターは、ビルの外壁にクモ糸を打ち込むと、一気に上昇していきます。割れた窓ガラスからラボの室内に飛び込んだ彼を待っていたのは・・・・宿敵グリーン・ゴブリン!

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「現れたな、スパイダーマン!」その手には、完成間際という言われている、新薬のフラスコが。

すかさず、グリーン・ゴブリンは「ゴブリン弾」を投げつけます。が、スパイダーマンは間一髪、「スパイダー感覚」でこれを躱します。続いて、「剃刀コウモリ」がうなりを上げて飛んできますが、これもラボの机を盾にやり過ごします。

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スパイダーマンも反撃で「腕力」を使用しますが、グリーン・ゴブリンは「エネルギー放出」で対抗。ならばと、今度は「網」を放ち、一時的にグリーン・ゴブリンの動きを止めます。

と、この騒ぎを聞きつけたNY市警が動き出します。「ニューヨーク市警の各局へ。ベルビュー病院で、奇妙な格好をした複数の男たちが暴れている、という通報あり。小規模な爆発も確認されており、テロの可能性も有りうる。各員は、銃器を携帯の上、至急、現場に急行されたし!」

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スパイダーマンとグリーン・ゴブリンの死闘が続く中、次々に警官隊が病院へ到着します。その目の前に、10Fから飛び出したグリーン・ゴブリンと追いかけるスパイダーマンが降ってきます。「手を上げろ!抵抗するな!」

どちらを攻撃したらいいか迷う警官隊に、片手をあげてスパイダーマンが呼びかけます。
「違う!僕は、味方だぁ!」(イベント「警察の協力」)

ゴブリンが発射したカボチャ爆弾が逸れ、うずくまっている民間人に命中する瞬間、スパイダーマンがクモ糸を放ちます。それを間一髪、キャッチすると、遠心力を使って遠くに投げ上げます。直後に、大きな空中爆発と衝撃波が!

それを見た警官隊は、スパイダーマンが味方(少なくともテロリストではない)と確信し、全ての銃器をゴブリンに向け直します。そして、一斉に銃弾を発射。「奴を撃て!」

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スパイダーマンに注意を集中していたグリーン・ゴブリンは、この思わぬ攻撃をまともに食らいます。いくつかの銃弾は装甲で弾かれたものの、多数による攻撃により、ゴブリンに命中弾が連続します(3ヒット!)「うぐ!」

態勢が悪いと判断したグリーン・ゴブリンは、煙幕「カボチャ爆弾」を張って、逃走を図りますが、なぜか、突風が吹いて、離脱できず(dr9以下成功で、10とは!)さらに、駆けつけた警官隊の銃撃を浴びて負傷しますが、気力で意識を保ちます。

この展開にスパイダーマンは次々と網を放ち、ゴブリンの動きを制約します。そして、狙い澄ました必殺技「ロープ」!これが決まれば、ゴブリンは捕縛でしたが、敵はなけなしの防御カード「エネルギー放出」を使用して、クモ糸を引きちぎります。

が、ここが限界でした。スパイダーマンとの激闘にカードを消耗したゴブリンは、隣接へクスまで逃げたものの、追撃する警官隊の猛烈な射撃の前に、ついに膝を屈します。瀕死の重傷のゴブリンは、死の間際にオズボーンに戻り、駆け寄ったスパイダーマンにささやきます。「息子を頼む・・・・」

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親友の父の死を看取ったスパイダーマンは、ゴブリンの正体を秘密にするべく、オズボーンの死体にクモ糸を巻き付けると、そのまま、持ち上げ、摩天楼に姿を消しました。

【第2戦 スパイダーマン対Drオクトパス】

続いて、プレイヤーを入れ換えて、第2戦に入ります。陣営は、スパイダーマン(Tommy)対Drオクトパス(mitsu)です。

まず、セットアップですが、幸いにもDrオクトパスの真の標的(中央郵便局の発送前の「絵画」)は探知されず。ダミーとして、ベルビュー病院の「新薬」とティファニー宝石店の「宝石」の情報が、スパイダーマンにもたらせます。
そこで、悪漢側は北部にダミー2つを配置し、Drオクトパスは南端で「死んだふり」を装います。

ゲーム開始とともに、悪漢側は「ギャング」カード2枚を使用して、あたかも本物のように北部に追加配置します。そして、何食わぬ顔で地下鉄に乗り込むと、ティファニー宝石店へと向かわせます。

対するピーター・パーカー(スパイダーマン)はこの動きに釣られて、北部へと向かいます。「自動車」を手に入れると、幹線道路沿いに移動を開始します。

数ターン後、マディソン通り駅に到着したギャングは、一斉に分散し、ピストル片手に大騒ぎをはじめます(陽動)。これを研ぎ澄まされた感覚で察知したスパイダーマンも、正体を表します。ギャングから逃げ惑っていたニューヨーカーの叫び声を浴びながら、スパイダーマンは地下鉄に乗り込み(!)、囮のダミーユニットを明らかにしていきます。

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これを目撃した市民の通報を受け、NY市警の全パトカーが出動します。

スパイダーマンと警察が急行中という、「想定通り」に運んでいるギャング団は、あえて時間稼ぎのため、逃亡を始めます。数ターンの「鬼ごっこ」の末、駆けつけた警官隊が、ギャング団と銃撃戦を始め、一部を制圧しましたが・・・。

この時、本命のDrオクトパスは地下鉄を乗り継ぎ、標的(中央郵便局の発送前の「絵画」)に到達。8本のアームを広げて、正体を表すと、強力な攻撃で金庫を打ち破ります。

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遠く離れた北部でギャングを追っていたスパイダーマンは、その並外れた聴覚で警察無線を傍受します。「ニューヨーク市警の各局へ。中央のソーホー地区で、郵便局襲撃が発生。現案件を処理後、ただちに中央郵便局に向かわれたし。」

「しまった、囮か!」陽動にかかったことに気づいたスパイダーマンは、乗客の騒ぎも無視して、走っている地下鉄に飛びつき、追跡に入ります。北部に集中していた警察隊も、ギャングの鎮圧後、猛スピードでそちらに向かいます。

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この間、余裕のDrオクトパスは、「絵画」を抱えたまま、金属アームで市民やタクシーを蹴散らし、地下鉄の駅へ。走行中の列車にアームを打ち込むと、大胆にも電車移動を始めます。リトル・イタリー街区で、通風口を吹き飛ばして、地上に出ると、アーム移動でウィリアムズバーグ橋に到達します。

待っていたのは、NY市警の道路封鎖隊でした。連絡を受けた警官隊がバリケードを設置し、のしのしと歩いてくるDrオクトパスを視認します。「絵画を傷つけぬよう、よく狙って・・・撃て!」

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複数の銃弾がDrオクトパスに向かいます。が、これを読んでいた悪漢は「金属アーム」を自在に使って躱すと、道路封鎖隊に突進します。3本のアームをパトカーに突き刺し、恐ろしい力で持ち上がたかと思うと、バリケードに向かって放り投げます。命の危険を感じた警官隊はなすすべなく、散開。もはや、悪漢を止めることは不可能に。

と、橋のたもとに辿り着いたDrオクトパスは、何かを感じたのか、背後を振り返ります。横転して煙を上げる自動車や横倒しで折れ曲がった街灯のはるか向こう-ビルとビルの間を縫って、なにかが近づいてくる!

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「ふふふ、待っていたぞ、スパイダーマン!」ちょうど、そこを通りかかった女性をアームでつかむと、これを人質に。そう、偶然にも、彼女はピーターが思いを寄せる、MJ・ワトソンその人でした。

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「その人を、離せ!!」怒りに燃えるスパイダーマンは、アームに飛びかかりますが、Drオクトパスは別のアームを使って、背後から攻撃!あわや、アームに貫かれるかという刹那、スパイダー感覚が危機を告げ、間一髪、これを躱します。

7本のアームが次々と襲いかかる中、並外れた身体能力とスパイダー感覚で、躱し続けます。そのわずかな隙を突き、スパイダーマンは必殺技ロープを放ちますが、Drオクトパスはアームを束ねて盾にして、これを防ぎます。
そうこうするうちに、遅まきながら、NY市警が到着します。数々のパトカーを周囲に並べてバリケード代わりにすると、射撃体勢に入りますが、人質の存在ゆえに発砲ができません。

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「だ、誰か、たすけてー!」あまりの苦しさに悲鳴を上げるMJ。それを救い出そうと、駆け寄っては、アームにはじき飛ばされるスパイダーマン。

一部の警官はスパイダーマンにも銃口を向けていましたが、彼がどうやら人質を助け出そうとするのを見て、もう一人の怪物(Drオクトパス)にショットガンを向け直します。(イベント「警察の協力」)

その前で繰り広げられる、両者の死闘!と、その時、特殊部隊出身の制圧グループが、現場に到着します。
「ガスだ、催涙ガスを使え!」

特殊車両からすばやく展開すると、人質に当てぬよう、次々と催涙ガスを発射します(dr5以下で気絶)。

ガス攻撃をまともに浴びたDrオクトパスは、不覚にもこれを吸い込んで、ぐらりとよろめきます。緩んだアームからMJワトソンを救い出したスパイダーマンは、次の一瞬に全てをかけます。必殺技ロープ!

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ガスの痺れで反応が鈍くなっているDrオクトパスを、強度抜群のクモ糸が絡め取ります。Drオクトパスはアームを使っていくつかを引きちぎりますが、次々と繰り出されるクモ糸に動きが鈍くなっていき・・・ついに捕縛!もと天才物理学者オットー・ギュンター・オクタビアスが自我を取り戻し、盗み出した絵画とともに、警察に保護されました。

ここまで読んで、そんな傑作?!と激しく誤解したあなたへ。本当のことを言うと、「世界でただ一つの完全AAR」として、かなり脚色しています(あるいは脳内補完)。

実際は、かなり広めの(フルマップの)マンハッタン地区を、スパイダーマンと悪漢、5台のパトカーが走り回るという、まったくインスタ映えしない、地味な絵面でして。正直、マップ上でユニットを動かす意味が、ほとんど感じられず(だんだんと億劫になる)、いっそ、TRPGにした方がなんぼか、わかりやすいです。

カードも「スパイダー感覚」とか「流動」とか「殺人光線」とか、黄色地に黒文字だけ。いまなら、きっと、プレイ意欲をかき立てる、写真かリアルな劇画調のイラストが入るでしょうね~。

よって、結論は、やっぱり「ガチンコの勝敗ゲームではなく、雰囲気を楽しむカード使用のロールプレイング」です。そう、「ロープ」の地味な文字だけでシュッと飛び出すクモ糸が、あるいは「剃刀コウモリ」できらりと光る高速の刃が、思い浮かべられる人こそ、プレイヤーにぴったりです。

そうでない人は、どうしたらいいかって?ええ、DVDを借りまくって、「スパイダーセンス」を身につけてから、プレイするようにしましょう!